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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)2546号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人桑原収の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。なお、商品市場における売買取引の委託について、顧客から商品仲買人に委託証拠金の代用として有価証券を預託する行為の法律上の性質は、根質権の設定であって、消費寄託ではないとした原判断は相当である。また、民法三四八条により、質権者は、質権設定者の同意がなくても、その権利の範囲内において、質物を転質となしうるのであるが、新たに設定された質権が原質権の範囲を超越するとき、すなわち、債権額、存続期間等転質の内容、範囲、態様が質権設定者に不利な結果を生ずる場合においては、その転質行為は横領罪を構成するものと解すべきであるとした原判断ならびに本件被告人の各担保差入行為は原質権の範囲を超越しているものと認定して、業務上横領罪の成立を認めた原判断は、いずれも相当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官草鹿浅之介の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官草鹿浅之介の意見は次のとおりである。

私は多数意見と結論を同じくし、また商品取引の委託について、顧客から商品仲買人に委託証拠金の代用として有価証券を預託する行為の法律上の性質を根質権の設定と解すべきであるとする点についてもこれと同調する。しかしながら、商品取引所法九二条にいう「物」の中には、委託証拠金に代わる有価証券も含まれると解すべきであり、従って、委託者の書面による同意を得ないで、これを担保に供し、貸し付けその他の処分をすることは、委託の趣旨に反する行為として、同条に違反すると同時に横領罪も構成するものと解すべきである。右理由の詳細については、本件についてなされた昭和四一年七月一三日大法廷判決の私の反対意見と同一であるから、これを引用する。そうすると、右の同意なくしてなされた被告人の本件担保差入行為が業務上横領罪を構成することは明らかである。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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